ラテンDNA!

「ヘイブロ！」

「トドビエン？」

「カズマ！」

午後4時ごろまだ人が少ないホステルへ仮眠をするために戻ってくると、ラテンのみんながすれ違うたびに挨拶をしてくる。

ラテンの割合が多いおかげでホステル全体の雰囲気がこのように明るくなっていることは確かだ。

部屋に戻って40分ほどの仮眠を終え、次の行動をするために荷物を持って外に行く。

2、3時間くらい作業をして外に出ると空が真っ暗になっていて、いつものようにCountdownというスーパーでチョコと、ホステルの一階に併設されているケバブ屋さんで頼むケバブにのせて食べるためのアボカドを買っておく。ちなみに、ニュージーランドのアボカドは大きくてよく熟していて、とってもとっても美味しい。

オークランドの長く続く坂を登り続けてホステルに戻ると、先ほどの仮眠帰りの雰囲気とは違い、多くの人が帰宅していてワイワイと声が聞こえ、和やかになっていた。

シェアハウスに住んでいたときは個室で、それぞれにやることがあったからほとんど1人で過ごしたけど、ここにくると無限に話し相手がいて、正直に言うと日本にある我が家に帰るよりもすごく安心する。

「ヘイブロ！」

「ビエン?」

「カズマ！」

と声をかけらたり、誰かに肩をポンと叩かれたりしながら部屋へ戻ると、クラウディオとホアキンがいつものように

「カズマー、トドビエン？」と満面の笑みで声をかけてくる。まるで犬が遊び相手を見つけたような顔をしている笑。

マグロは常に泳いでいないと死んでしまうらしいが、ラテンの奴らは会話し続けないと死んでしまうのではないか、というくらい四六時中コイツらは誰かしたと話したがっている。すごいなこのエネルギー。

コミュニケーションがラテンに比べると乏しいと感じる日本人の僕からすると、まるで自分が常に話しかけられるからまるで有名人のような扱いを受けていると錯覚するけど、ラテンの彼らにとっては当たり前のことであり、「本当に人とのコミュニケーションを大事にしている種族なんだな」と強く実感する。

ちなみに僕たちの部屋には、クラウディオが所有しているスーツケース並みのスピーカーがあり、ビールも毎日ルームメイトが箱買いしているので、部屋に入るなり僕に

「はい、お前のビール」みたいに手渡される。それくらい飲む文化がこのホステルにはあるし、逆に飲まなかったら「お前はこの時間帯に一体何をしているの？」っていう雰囲気になる。

先ほど書いたどデカいスピーカーからクラウディオが大好きな、 「Un Finde | CROSSOVER #2」を流して、部屋から爆音で流れる音楽がホステル中へ響き渡る。

音を聞きつけて僕らの部屋に人が来て踊ったり、笑ったり、興奮し出して服を脱いで腕相撲とかをする。

自分もそれに参加しているんだけど、それをどこか客観的にも見ている自分もいて、

「思い切って海外に行かなかったら、しかも「ホステルに住む」って決めなかったら、こんな環境では生活はできなかったな。お金がいくらあったとしてもこの環境を買えるわけではないから、本当に良い経験をしているんだな自分」と感じていた。

「夜に騒ぐのがここのホステルに住んでるなら当然でしょ」と言う雰囲気が、ホステル全体でネガティブなエネルギーを生まず、ポジティブで温かいエネルギーを維持できている要因の一つでもあると思う。バイトとかで嫌なことがあっても、騒いで忘れてぐっすり寝てまた明日を生きようぜみたいに。

初めてここのホステルに来た人もこの雰囲気に圧倒されているのも見ていて感じるけど、少し時間が経てば馴染んでるというか、

ラテンの奴らが「ようこそ！俺らのホステルへ！」っていう感じでどんどん新しい人に話しかけて「ほらこいつとこいつが俺の友達だぜ」って感じでさらに話しかけて、みんながいる広場へ連れて行って紹介したりする流れがあるから、ここのホステルに入ってきた人はすぐに慣れる。

俺って今まですごく冷たかった人間なのかな？それともコイツらが異常に人間が大好きなのかな。。

「どうしてラテンで埋め尽くされると、こんなにポジティブで明るいエネルギーが広がるんだろう。なぜ日本ではこうならないのだろう」

この答えを自分なりに理解して言葉でも説明できるようにしたかったから、なるべく自分がその場に参加している主観と、今いる空間を全体から見たような客観的な視点を日々行き来して彼らと時間を過ごしていた。

その結果、彼らと半年くらい暮らしていて完全に理解した訳ではないけど「場を盛り上げるぞ」と自分からエンジンをかけて意識的に笑顔になったり場を盛り上げたりしているのではなく、

「デフォルトで元々陽気なDNAを持っていて、人と話さないと死んでしまうような機能がついている人種」という結論に僕の中で今の所達している。

じゃないと計算が合わないというか笑、おかしいもん。意識的にここまで明るくなれないし、DNA以外考えられない。

毒蛇が目の前にいたら無意識的に逃げるように、彼らは人がいたら無意識的に陽気になってしまうDNAが刻まれていると僕の体験から結論づけた。

みんなで騒いだあとは、内向的な僕としては結構疲れたので、僕と同じ内向的なタイプのトルコ人のチィ(勝手に決めつけてごめんな)と一緒にその場を抜け出して、ケバブをテイクアウトするために下に降りていって、

それを持ってまたホステルがある2階に登り、人が少なくなった夜中のキッチンでさきほど買っておいたニュージーランド自慢の美味しいアボカドをその上にのせてゆっくり食べた。

ドタバタした空間から抜け出せて、静かになった時にふと「何で俺はニュージーランドにいるんだろう。ここで一体何をしているんだろう」と考えるけど、一日の終わりでもう疲れているから考えるのをやめて、視線をケバブに戻した。