サンシャイン

白人だらけのホステルの中に、ニューヨーク出身の元警察官である黒人のサンシャインが住んでいた。

彼女はどれだけ外が暑くても必ずタイトなジーンズを着て、異様に反り上がっているつけまをつけ、茶髪のウィッグも付けている。

性格や表情がすごく明るくて、英語の発音が綺麗、というかオシャレ。まるで教科書のCDを聞いているようだった。そしてメイクが濃い。

彼女から「自分の生き方は決まっているし、男の助けもいらない」というようなすごく強い生命力やオーラを感じる。

「男の助けはいらないもんね」と"強がっているだけ"の女性も存在するけど、サンシャインの場合は本物の強さだった。

初めは廊下ですれ違うたびにお互い軽く挨拶をしていただけだったが、同じ部屋になってから話す機会が急激に増えた。

彼女は話している物事一つ一つビシッと決めて責任を取るような言い方をしていて「警察官っぽいな」と思ったし、潔い感じが見ていて気持ちよかった。

30歳の彼女からして僕のことが子供のように見えていたから、遠慮なくビシッと言える話し方になっていたのかもしれない。

ホステルの近くにチェーン店のピザ屋があり、5ドルでフリスビーほどの大きさのペペロ二ピッザをテイクアウトすることができる。サクッとした生地にほんのりハチミツが塗られており、それが病みつきで頻繁に通っていたんだけど、実はサンシャインともよくそこで遭遇していた。

「やっぱニューヨーカーはピザ屋に来るよな」

ピザが焼かれている間に色々と話すんだけど、先ほどにも書いたように彼女の口から出た発言には「迷いがない」というか、こちらの気持ちや顔色を気にせずに思ったことをバシバシいってくれるから、話題がどんどん解決して先に進んでいく感覚があり、まるで男同士と会話しているみたいで気持ちよかった。

「私はいろんな国にこれから行くの。ニュージーランドはスタート地点よ!」とよく言っていた。

30歳の女性が、暑苦しい男どもの部屋で一緒に寝なければいけないホステルという環境に住んで生活していくのは、正直精神的に辛いのではないかと思っていたけど、

彼女は「本当に自分が心の底から、魂の底からやりたいことを今できているんだ」というオーラを常に発していて、立ち振る舞いや表情からもそれを感じ取る事ができる。

単にカラ元気なのかもしれないし、本当のことは僕にはわからないけど。

でもサンシャインの取っている行動を客観的に見ると「私はこうやって生きる!」と決断をすることもそうだが、その決断を信じて女性一人で飛び込んでいった勇気はすごいと思った。

あの年齢で彼女と同じことをやっている人は中々いないと思うし、今までの「ニューヨークで警察官をしていたサンシャイン」から旅人として生活をグレードダウンして踏み出すのはとても勇気が必要だし、自分の信念をちゃんと持っていないとできない行動だ。

サンシャインは自分の心の内側としっかりと対話している人だなと思った。

こんな感じで彼女と接してから「一般的な世間やメディアに触れて自然と築かれた常識」とはまた違うタイプの常識に触れる事ができた。

「当たり前だけど、自分の生き方って自分で決めるんだな!」

「本人が魂レベルで充実した生活を送っていれば、どんなスタイルで生きたって関係ないんだな!本当に」

サンシャインを見ていて、自分の信念を持っている人は自分の世界に他者の思考を介入させない機能が今までの人生体験から構築されていると感じるし、

それと同時に自分の信念を持っている人に対して、外野がいちいちこのようにジャッジすること自体リスペクトに欠けると感じたし、ジャッジなんてダサい事する人はそもそも彼女と同じ人生の次元にすら立っていないような気もした。

この瞬間に僕は「自分がイメージしているベテランの旅人同士が心の底でお互い共有している事」に少し触れることができたような気がした。

「悟っている人(ベテランの旅人)って自分の軸を持ってそれを信じて生きているから、心が穏やかそうに見えるんだな」

サンシャインのような「他人の価値基準で動いていない、自分の魂に従って進んでいる、自分の内側の声とたくさん対話している人」を見ていて本当に気持ちが良いし彼女を見ていると、まるで僕の魂が浄化されるような感覚もする。

「みんながやってるから」 「親からのプレッシャー、友人によく見られたいから」

これを基準に生き方を選んだ人とサンシャイン、人生の最後に笑っているのは、果たしてどちらだろうか。